>> HOME >> REVIEW
螺旋回廊
タイトル
  • 螺旋回廊

    メーカー
  • ruf

    評価
  • 9点




  • review

     ……エロゲの悪意を煮詰めるとここまでの作品ができるのか。

     『螺旋回廊』の発売は2000年。歴史の浅いエロゲ業界からみれば充分に古典作品の分類に属してしまうだろう。実際2007年現在から見てしまうと、シナリオボリュームは少ないし、グラフィックの塗りもかなり甘く、システム自体も相当にチープである。だので絵買いだとかエロシーンが多いという理由で、抜きゲをプレイする人にとっては物足りないのは事実であろう。ただそんな理由なぞ吹き飛ばしてしまうほどのパワーを今現在なお持っている。

     ネット黎明期であり、一般人にとってはまだアングラな雰囲気を感じる時代。そんなネットの持つ”わけのわからなさ”を軸に据えながら、「ローシュタインの回廊」のような”一概に嘘と言えない”都市伝説や主人公自身が封印している暗い過去をサイドに置き、人間たちの持つ悪意と善意の危うい揺らぎをこの”わけのわからない”時代の空気の中で描く。

     本作の特異点といえば、主人公すらその悪と善のゆらぎの中に身をおいているという事だ。一番初めに主人公に提示される選択肢は、「公園内のプレハブでホームレスによって拉致をされている女性を”犯す”か”犯さない”」かである。そこに立つ主人公は善も悪もなく、ただ立っている。

     選択肢によりアングラな世界に引き込まれるか、そのアングラな世界であるエデンと対峙するかが決まる。大抵の陵辱ゲはあらかじめ主人公が善性を持っているか、悪意を持っているかが決まった上でプレイが開始される。ある意味精神的に安定してプレイが出来る。作品を通して、悪意と戦っていくのか、それまた女性たちを陥れていくのか。しかし本作はそういったプレイヤーの基盤たる主人公の善悪の方向性すら定まらない。展開によって風変わりな大学教授だったはずの主人公は薬漬けになった女性の顔を切り刻んだりする。一貫して安定しているのはエデンの底知れぬ悪意だけ。それ以外は木の葉のように容易く揺らいでしまう。

     シュチュ自体もかなり激しく、食糞、男色、近親相姦、女性器に傘の柄を突っ込み木に吊るし放置、薬漬けにした後にポリバケツに捨てる。など。ただ本作の本懐は先に述べたように別の部分にある。あくまでこういったシュチュは「光」と「闇」の中間にある人格を「闇」の方へ傾かせるガジェットに過ぎない。

     それはまさに暗闇の中、薄氷を踏みながら霞がかる対岸を目指すような危うさ。踏み出した先に氷が張っているかどうかは、体重をかけた後にしか分からない。無事に一歩すすめれば、さらに進まなければならず、運悪く氷を踏み抜いてしまった先には暗い闇だけがまっている。水の中で待っているのは、楽しい事のためには人を壊す事も厭わない無邪気すぎる悪意だけ。ぜひ攻略などに頼らずにプレイしてもらいたい。僅かに見える希望の先にもやはり悪意がぽっかりと口を開けて待っているから。