"演出"のためのシナリオか、"シナリオ"のための演出か。大抵のエロゲの場合はもちろん"シナリオ"のための演出であるのだが、本作ではそういった当たり前の議論を改めて考えさせる。それほどまでに3Dエロゲというものは、ビジュアルノベル方式とアドベンチャーゲーム方式で成熟してきたエロゲ業界にとって未知数のものであり、3Dキャラが動くという演出法はシナリオすら喰ってしまう力を持っている。そこら辺は『らぶデス2』のべんちぱーく(笑)を動かしてもらえれば容易に感じる事が出来るだろう。
だが未だに3Dエロゲのフォーマット的なものが無いせいか、メーカーはおろかユーザーですら3Dの方向性を決めかねているというのが現状ではないだろうか。業界を見渡してみても、『人工少女』『Sexyビーチ』などのリアルポリゴンシナリオ切捨て派である『illusion』、『らぶデス』『痴漢は犯罪』などの萌えポリゴンunzip派の『tea time』。ユーザーにしても3Dは、仕草萌え、または演出方法の一環、さらにはポリゴンを上下左右動かすのが楽しみ、はたまたそのエロゲのために自作PCを組んで待つ事が一番の楽しみ、などとかなり千差万別だろう。
さて本作『タイムリープ』の取った方向性はというと、3Dを"演出"方面に遺憾無く発揮させた作品である。『らぶデス2』の悪夢の重さをあざ笑うかのような軽やかな起動と読み込み速度、キーとなる部分ではムービーで舞台を演出する、と非常に快適にプレイできるシステムを構築している(唯一の不満点はスキップの遅さ)。シナリオも、思春期の揺らぎたるタイムリープという設定を軸に、居場所を無くした捨て子たちが築く家庭、そして彼らの結びつき方は心地よく、さらに舞台は田舎町(恐らく尾道)であり、背景も柔らかいタッチで描かれており作品の和やかな温かさを演出してくれている。あゆと歩の過去と未来のふたりの掛け合いも非常に可愛らしく描いている。
そして肝心な部分。プレイした人なら分かると思うが、悠と遥、あゆむと歩の不思議な対の関係性は、攻略対象にどちらを選んだにしろ、物語を語る上でどうしても言及せざる得ない「タイムリープ」というガジェットは、彼女らに"優しく"出来ている。結ばれた後に「タイムリープ」という設定を考えてしまうと、最終的にどちらを選んだか良く分からないような曖昧な結びつきは、見ようによっては煮えたぎらなくさえ見える。鶏が先か卵が先か、である。しかし本作の魅力は一つはまさにその"曖昧さ"であると言えないだろうか。親という家庭の絶対性を失った子供らがお爺さんを中心にして作った家族はまさに"曖昧"そのものであり、主人公とヒロインたちは年齢的にもその"揺らぎ"の中に身を置いている。そんな"曖昧"な関係性からひとつの方向性を見つけようとする物語だからこそ、タイムリープの設定の"曖昧さ"は"優しく"、物語が紡がれる世界もまた彼女たちに"優しい"。明示しないからこそのそんな"優しさ"はプレイしていて非常に心地よい。
しかしながらその"曖昧さ"は3Dエロゲという媒体にはあっていなかった。……というよりユーザー自身が何を求めていたのかどうかすら分からなかったのかもしれない。彼らが求めていたものは、エロゲにあわせてPCを自作する事が楽しみだったかもしれないし、3Dで動くエロシーンが楽しみだったかもしれない。また演出の幅が増えた事を単純に楽しみにしていた人もいれば、3Dという武器を手に入れたエロゲ業界が変わるかもしれない瞬間を見たい人だっていたかもしれない。
恐らくユーザーが提示して欲しかったものは"曖昧さ"では無く、3Dエロゲの指針を決定的にしてくれる"何か"だったのだろう。エロゲ表現の方向性を決めた『雫』『痕』が提示したビジュアルノベル形式の様な決定的なものだったのではないか。"曖昧さ"を描いた本作をプレイした後に感じた。
ただ「Front Wing」は明らかにユーザー側に歩み寄ろうとしている。体験版を閉じるたびに出てくるアンケート。アンケート結果のweb発表。そしてエロシーンがムービーで表現される事がユーザーにとって不満だと分かると、パッチにてリアルタイムシーン導入の決定。その歩みが遅いか速いかは分からない。しかしそのままユーザーに歩み続けてくれるならば、「Front Wing」こそが3Dエロゲの指針を"決定的にしてくれる何か"をもたらしてくれるのではないだろうか。